#32 And then, return to beginning | そして、初めに戻る
いよいよ伊勢佐木町センタービルでの活動も大詰めを迎えるアズマテイプロジェクト(AZP)では、このたび大久保ありと志田塗装による展覧会「そして、初めに戻る」を開催いたします。
大久保ありは、「#20 イタリアの三日月」(2021)に参加し、AZPの空間に合わせた新作インスタレーション「You wouldn't see the Ghosts」を自作の短編小説とともに発表しました。志田塗装は、「#27 志田塗装 虚実の皮膜」(2022)で、古びた外壁を再現する描画技術やこれまで収集してきた建築物の外壁塗膜のコレクションを初公開しました。大久保が同展に訪れたことから両者の交流は生まれています。志田塗装の仕事に興味を持った大久保は、参加が決まっていた「MOTアニュアル2022 私の正しさは誰かの悲しみあるいは憎しみ」(東京都現代美術館)の自身の展示空間の塗装を依頼しました。現在開催中の同展で大久保が試みているのは、内と外が入子状になった大規模な回廊状の空間をつくり、そこに自身の過去の作品を再構成しつつ配置することで、複数の物語と時間軸が交差する「新たな物語」を紡ぐことです。志田塗装は、その回廊の壁面に清澄白河周辺の古い住宅の外壁や現代美術館の外観を模した特殊塗装を施し、さらに会期中にはその壁面にイタズラ描き=作品を挿入しました。大久保作品の文脈から外れた志田塗装のこの行為は、路地裏で目にする日常的光景としての錯覚を起こさせます。一方、今回のAZP展示では、「志田塗装の事務所」への介入が、大久保によって試みられることになります。現代美術館とAZPという2つの場所への同時進行的な挿入と介入は、すれ違いながらも重なり合い、それぞれの物語を駆動させていくことになります。
アズマテイプロジェクトは、独立した個として活動するアーティスト同士が繋がり協働しながら運営するスペースとして、自主的な表現の場をつくり上げてきました。残念ながらその活動の舞台となっている伊勢佐木町センタービルの幕はまもなく下りてしまいますが、アーティストの自主的な表現の場づくりに終わりはありません。展覧会タイトルの 「そして、初めに戻る」は、一旦終了した舞台のエピローグからこれから始まるプロローグまでの幕間を意味しています。変えられない終わりの不可逆な状況下に置かれながらも、そこに抗うアーティストの姿勢を少しでも感じ取っていただける機会にできれば幸いです。
美術家 酒井一吉
#32 Prophecy | 予言
揺蕩い 焦がしたるは 麗しき朽ち果つ 擂潰したりて 双なき垢狼煙をあぐ - 烏亭(P•A•D)
出品作家:烏亭
会期:2022年9月17日(土) - 25日(日) / 会期中毎日開場 14:00-19:00
Installation view / Photo by KARASU-TEI
Installation view / Photo by KARASU-TEI
Installation view / Photo by KARASU-TEI
Installation view / Photo by KARASU-TEI
Installation view / Photo by KARASU-TEI
#33 Heading to FUJIDANA | 藤棚へ
出品作家:有原 友一、浅野 純人、東亭 順、江西 淳、原田 直子、石井 琢郎、利部 志穂、海保 竜平、烏亭、烏山 秀直、勝又 豊子、倉重 光則、南條 哲章、小川 浩子、大久保 あり、Rommy 、齋藤 雄介、酒井 一吉、saku 、関 文子、Soft-Concrete、 諏訪 未知、武内 優記、田中 秀和、田中 啓一郎、冨岡 奏子、戸谷 森、辻郷 晃司、山本 利枝子、yomikake 、#30祭り
会期:2022年10月1(土), 2(日), 7(金), 8(土), 9(日), 10(月祝) / 14:00-18:00
座談の場:
10月1日 (土) 16:00 ~ 有原 友一(画家) × 田中 秀和(画家) × 烏山 秀直(画家)
10月2日 (日) 17:00 ~ 大久保あり(現代美術家) × 酒井一吉 (美術家) × 田中啓一郎 (美術家)
10月8日 (土) 16:00 ~ 石井 琢郎(彫刻家) × 諏訪 未知(美術家) × 烏亭(P.A.D)
10月9日 (日) 16:00 ~ 倉重 光則(現代美術家) × 勝又 豊子(美術家) × 烏亭(P.A.D)
10月10日 (月祝) 16:00 ~ 海保 竜平(写真家) × 田中 啓一郎(美術家)
18:00 ~ 移動準備 - 藤棚へ
21:00 ~ クロージング
アズマテイプロジェクトは本展覧会を機に、現在の伊勢佐木町センタービルを離れ藤棚町へ場所を移すための準備期間に入ります。
#33では、ここでの活動を締めくくるべく、我々の活動を支えてくれている作家の作品に焦点を当てた展覧会「藤棚へ」を開催いたします。 展示するのは、これまで来場者へ積極的に語られることがなかった、バックヤードに所狭しと掛けられている作品たち。 活動に関わってくれた作家から直接譲り受けたり、ここでの活動を通して購入してきたこれらの作品たちは、「ここで起きたことを記録する」というメンバーの意志のもと集められた大切なコレクションであり、我々にとって代替不可能な宝物となっています。
会期中には、作家本人を交えた座談の場を設ける予定です。 作家の生の声を聞ける特別な機会となることでしょう。 また最終日には、新しい場所へ移るための準備を行います。 是非ご高覧ください。
多くのモノが容易に他の媒体に置き換えられ、たやすく売買される現在において、作品をきっかけに作家と本気で関わり語り合うこと。 それこそがアズマテイプロジェクトのこれまでとこれからを示す活動の証であることを信じて。(田中敬一郎)
Installation view / Photo by Ryuhei Kaiho
Installation view / Photo by Ryuhei Kaiho
Installation view / Photo by Ryuhei Kaiho
Photo by Ryuhei Kaiho
#33 2nd Art Exhibition Tetsuaki NANJO| 第二回美術展 南條哲章
出品作家:南條 哲章
会期:2022年10月1(土), 2(日), 7(金), 8(土), 9(日), 10(月祝) / 14:00-18:00
いよいよ伊勢佐木町センタービルでの活動も大詰めを迎るアズマテイプロジェクト(AZP)では、これまで1展示1ヶ月ほどだった開催日程を変更して2週ごとに3つの展覧会をAZP内3つのスペースで開催します。今回の#33で伊勢佐木町センタービルでの活動は節目を迎え、以降再始動へ向けた準備期間に入ります。
#33では、南條哲章による展覧会を開催いたします。AZP創設メンバーの1人である南條は、姉と保育園を設立するだけでなく、幼馴染の運営する美術研究室を支えるなど、多方面から頼りにされる多忙な毎日を送る三児の父親です。2022年4月に開催した#28 『美術展覧会 第一回「南條哲章」展』において展示された他のAZPメンバー4人からのインタビューで「社会人になって間もなく三代続く市議会議員である父親の議員活動をサポートするようになり、次第に南條家の家柄を意識するようになった」と語っていたように、周囲からも謙虚で誠実な人物として親しまれてきました。しかし、美術家たちとAZPの立ち上げに与しこの「アズプロ第四の男=南條哲章とは何者か?」というテーマのもと行われた同展覧会において、インタビューやそれを基に制作された自分の名が冠された作品、さらに出生からの歩みを思い返した半生をメンバー総出で手書きした巻物を目の当たりにしたことで、彼の人生は大きく揺れ動き始めます。「家系ではなく自分自身を意識した」と展覧会後に語った南條は、幼馴染と細君の助言もあり、翌月の2022年5月、武蔵野美術大学通信教育課程デザイン情報学科へ入学。これまでとは異なる視点から「情報・社会・環境」を学ぶべく歩み始めたのです。
今回のアズマテイプロジェクトでは、#28に出品された4つのインタビューの再展示に合わせ、本人の筆による「南條哲章展」レビューを展示します。さらに、美術大学に進学して新たなステージに立った南條より、「過去・現在・未来」をテーマにした人生初となる作品の発表を行います。
どのような肩書きであれ様々な人々と向き合い、そこでの手掛かりをキッカケに人生を模索し続ける。試行錯誤を続ける彼の打ち出す表現が、美術か否かではなく、世の中の何かひとつでも理解するきっかけになればと願う。伊勢佐木町センタービルでの活動によって新しく動き始めたひとりである南條哲章が、この場所でどのような境地を見せてくれるのか、楽しみで仕方がない。 (田中敬一郎)
Installation view / Photo by Ryuhei Kaiho
Installation view / Photo by Ryuhei Kaiho
#33 Last Drawing for Center Building | 伊勢佐木町センタービル 最後のドローイング
出品作家:烏亭 (烏山秀直+東亭順)
会期:会期:2022年10月1(土), 2(日), 7(金), 8(土), 9(日), 10(月祝) / 14:00-18:00
10月10日 (月祝) 19:00 ~
ライヴパフォーマンス : Soft-Concrete × 烏亭
2021年7月3日開催のアズマテイプロジェクト#23「現れの場 酒井一吉」展初日。外壁に面さない行き止まりのこの部屋(通称3-C)には、花柄のステンドガラスという場違いな明かりとりが備え付けられている。壁を隔てた隣の事務所からわずかばかりの明かりをお裾分けしてもらう狙いだろう。その薄あかりの中に立ち現れたのは、あるべき壁が取り払われ、もはや部屋とは言えない状態をさらす開け放たれた空間だった。両脇の壁は突板(ツキイタ)が剥がされ、木造の軸組(ジクグミ)が露わにされ、剥がされた板が湾曲しながら構造体にもたれかかっていた。亜麻色と胡桃染の2色に塗り分けられたコンクリートの分厚そうな壁だけが、そこが室内であることをかろうじて示唆していた。
同展初日、正面に唯一元の姿のまま残された壁を使って烏亭のパフォーマンスは行われた。アズプロ宣言文を透明な塗料で壁に記し、その文字を炎によって焦がし浮かびあがらせるというものだ。縦書きで4列9行36文字の漢字で表記されていることもあり、壁に焦げついた文字は意味の読み取れない歴史的な碑を思わせる佇まいを見せていた。会期終了とともに、部屋の壁は板がぎこちなく元の場所に打ち直され、強度を増して何事もなかったかのように元通りの姿に戻された。施工時に印として番号がふられたテープやところどころ塗装の禿げた板の継ぎ目だけが、物言わぬ目撃者のようにこちらを窺っているようだった。
2021年9月23日開催の#24「闇の中の白い正午 倉重光則」展では、新たに付加された3面の壁に真っ白な塗料が塗られ、床もモルタルで仕上げられた。廊下とこの部屋を仕切る壁、そして天井だけが以前と変わらぬ姿で残されたことを除けば、板の継ぎ目もない小綺麗な新しい空間に姿を変えた。当然、烏亭が行ったパフォーマンスの痕跡は跡形もなく壁の向こうに封印された ―― 現在すでに取り壊しが決定し移転準備の真っ最中であるが、当時はこのビルが解体されるのはまだまだ先だとぼんやり思っていたし、いつの日かやってくる解体業者が白い壁の裏で息を殺して待ち構える焼きつけられた謎の宣言文に気づく瞬間……と、ニヤけるくらいの心持ちだった。――
2021年10月30日開催の#25 「ロマンティックに生き延びろ 烏亭」展では、460cm×280cmの巨大な白布に千の生菊花を円形に縫い付けた作品No.30102021-32を、壁の裏に潜む宣言文の少し手前に垂れ下げて発表した。黄、白、紫など大小様々な生菊花を縫い針でひとつずつ縫い付けるという作業は想像以上に過酷であり、親しい友人達の助けなしでは全て縫い付けることは不可能だったに違いない。すでに咲きこぼれるもの、蕾のもの、干涸びた花片を落としていくもの、と不揃いでひとつとして同じものはない。ぎっしりと隙間なく縫いつけようが、優雅に死が侵食を続けながらすべてが土色に変転していった。
2022年10月1日から始まる今展では、その美しくも無惨な姿を晒した菊花旗と、壁の向こうに焼き付けられた宣言文を結ぶ制作に取り組む。 緑色の階段をのぼり切ると、点滅を続ける蛍光灯が乾いた音をたてて人けのなさを助長していた。薄暗い廊下を左に曲がると街の喧騒が静かに消え入り、息を潜めなければいけないという気配に包まれ、どん詰まりの閉ざされた空間と対峙する。鈍い光沢を放つ真鍮製のドアノブには、簡素な掛金に施錠されずに南京錠がぶら下がっていた。立て付けの悪い古びた扉を引くと、軋みと同時にすえた匂いがゆっくりと流れ出て、滑るように注ぎ込む淡い光が部屋をぼんやりと浮かびあがらせていた。初めて見る窓枠の構造は昭和モダンなのか、正面に立ちはだかる壁は抽象絵画なのか。そして、不気味に散らばっていた床一面のカラフルなタイル。映画のセットよりも純粋で、上質な空間がそこにあった ―― あれから4年、 アズマテイプロジェクトがここ伊勢佐木町センタービルで行う最後の企画である。我々の宣言は4年前と変わらず、僅かな光さえも溢さずに枯れることはない。(東亭順)
Installation view / Photo by Keiichiro Tanaka
Work In Progress | Photo by Keiichiro Tanaka
Work In Progress | Photo by Keiichiro Tanaka
Work In Progress | Photo by Keiichiro Tanaka
Live Performance / with Soft-Concrete | Photo by Ryuhei Kaiho
Live Performance / with Soft-Concrete | Photo by Ryuhei Kaiho
Photo by Jun Azumatei
Photo by Jun Azumatei
la Seine by Soft-Concrete