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#39

#34

#34 寿け - ところでおたくはどちらさん?-

出品作家:アクセル・テップファ、土士ロ、烏亭、田中啓一郎、酒井一吉、南條哲章、烏山秀直、東亭順

​企画:不二七


会期:2023年1月28日(土) - 2月23日(木祝) / 土日祝日のみ開場 14:00-18:00

 

談話席:1/29 18:30- 烏亭 |  2/11 18:30 - 田中啓一郎  |  2/18  18:30- 酒井一吉

横浜市中区伊勢佐木町センタービルでの4年間の活動を終えて、2023年1月より横浜市西区藤棚ハイツに活動拠点を移します。藤棚ハイツでの柿落としとなる本展は、刷新されたメンバーのお披露目を兼ねた展覧会になります。立ち上げから活動に尽力してきた東亭順から不二七に代表が代わり、今後は烏山秀直、南條哲章、田中啓一郎、酒井一吉、烏亭、Dodor、Axel Toepferの8組でプロジェクトを進めます。タイトルにある「寿け」は祝うべき目出度い事柄を指す「寿」の動詞活用でありその命令形です。昨今、寿という言葉を会話で使うことは滅多にありませんし、その命令形が意味する「祝え」などといった物言いは主催者が使うものではないでしょう。しかし、古来から慶事は人間の営みにおいて重要な役割を果たし、芸術行為もその一翼を担ってきました。祝いの席となる本展では、8組の芸術家たちが藤棚ハイツで芸術行為によって寿きます。〈不二七〉

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new space FUJIDANA / Photo by Ryuhei KAIHO

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Axel Toepfer / Installation view / Photo by Ryuhei KAIHO

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L: Keiichiro TANAKA R: Axel Toepfer / Installation view / Photo by Ryuhei KAIHO

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Keiichiro TANAKA. Kazuyoshi SAKAI, Jun AZUMATEI  / Installation view / Photo by Ryuhei KAIHO

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U: Tetsuaki NANJO  D: KARASU-TEI / Installation view / Photo by Ryuhei KAIHO

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Hidetada KARASUYAMA,  KARASU-TEI, Jun AZUMATEI / Installation view / Photo by Ryuhei KAIHO

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Dodor / Installation view / Photo by Ryuhei KAIHO

#35 4つのパースペクティブ - 例えば風景もしくは黒っぽいなにか-

#35パースペクティブ

出品作家:サムリ・ブラッテル、影島晋平、志田塗装、東亭順

​企画:不二七


会期:2023年3月11日(土) - 26日(木祝) / 土日祝日のみ開場 14:00-18:00

 

談話席 18:00- 3/18 不二七  |  3/19 影島晋平  |  3/25 サムリ・ブラッテル  |  3/26 志田塗装

パースペクティブ。透視図法や遠近法を指し日本語では略してパースと呼びます。また、視点・ものの見方・眺望・将来の見通しなどの意味を含む言葉です。ルネッサンス期に生み出されたこの技法は、空間のイメージがわかりやすいよう建物などに自然な立体感を与え、画面上における視線の誘導などに用いられてきました。現在も分譲マンションの完成予想図やゲームなどの仮想空間にその効果を発揮しています。しかし、実際の生活では、あらゆる軒先からそれぞれの方角にかかるパースが無数の消失点をつくっており、すっきりと整ったパースで統一された環境に身を置くことは稀でしょう。加えて手のひらに収まる小さな矩形の画面を覗き込みながら大半の時間を過ごす現代の生活では、一息ついて見通しをつけることなどできる気がしません。

 

振り返らず・脇目もふらず・時間をかけず・肉体への負荷もなく知識を瞬時に得ることは、ストレスを抱え忙しく立ち回る現代の私たちにとって素晴らしい時短パフォーマンスです。ながら視聴などの「ながら行為」で効率的に時間を使うことや、映画やドラマの時短視聴、数秒で完結する動画アプリなどはその代表でしょう。この時短の真逆とも言える行為のひとつに芸術鑑賞があります。そこには筋書きもなければ、フリもオチもなくフラグも立てられていません。物音を立てることさえ憚られ緊張感を強いる静けさに包まれたガランとした空間で、壁に掛けられた謎のモノを見て気の利いた感想を言わなければいけないような空気。もっともらしい文章が添えられているけれど、何ひとつ満足な答えらしいものを得ることができずに眠気さえ誘う場所。ボケーっとしていることがむしろ求められるほとんど唯一の場所。一部の愛好家を除けばもはや贅沢を通り越してコスパもタイパも非常に悪い空間と言えるでしょう。

 

握りしめた液晶画面を凝視する姿と絵画鑑賞を比較してみると、フレーム内に注ぎ込まれる視線の集中力だけは似ています。絵画が動くことはないので、身体を近づけたり遠のけたりして、そこにある情報を整理して自分の心の動きを分析するしかありません。絵画鑑賞とは非常に能動的に作品と対峙しなければならない行為であり、鑑賞者を試す装置であることにほかならず、どれだけの時間をかけても文句を言われません。それは、作品だけに意識が注がれる空間であり、目の前にあるのは、作者のパースペクティブによって選択されて描かれた指針です。そこに描かれたものに鑑賞者が価値を見出すかどうかわかりませんが、どんな解釈をも受け入れるものであるべきです。四組の見方が重なり絡み合うその眺望に心が動かされ、何かを見通すことのできる場となることを願っています。〈不二七〉

サムリ・ブラッテル

https://www.samuliblatter.ch

フィンランド生まれ、東京在住。ベルン芸術大学現代美術修士課程修了後、アールガウ美術館、ルツェルン美術館などスイスを中心に発表。2020年TOKASにて滞在制作。2022年12月より東京に活動拠点を移す。鋭利に削られた鉛筆のみで描かれたドローイングは版画もしくは彫刻的な仕上がりをみせる。

影島晋平

https://shinpeikageshima.mond.jp

1985年神奈川生まれ、多摩美術大学大学院美術研究科(修士課程)絵画専攻修了。主な展示に「相模原」、「地面と幾何形体」、「想起と泥棒」、「風&景」など。2023年初めに新作ドローイング集『DUNAMIS』を制作。

志田塗装

https://shida-toso.com

横浜を拠点とする創業1874年の塗装屋。創業者の志田勘三郎は、日本の先駆的なペインターである町田辰五郎に師事。日本人初のペンキ塗装工事と云われる横浜応接所の塗装を経験したことから、生涯をペンキ塗装に捧げる。現在は、志田英治が代表を務め、外壁の雨染みや傷、汚れなどの経年劣化の風合いを塗料で描き再現する特殊塗装を主な業務として行い、その傍ら建物の外壁塗膜を剥がし取り収集する活動を行う。

東亭順

https://www.junazumatei.com/bio

2015年より横浜に拠点を移す。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業、HGK修士課程中退。アズマテイプロジェクト初代代表。

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L: Shinpei KAGESHIMA R:Samuli Blatter  / Installation view / Photo by Ryuhei KAIHO

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L: SHida-Toso R: Shinpei KAGESHIMA / Installation view / Photo by Ryuhei KAIHO

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L: Samuli Blatter R: Jun AZUMATEI / Installation view / Photo by Ryuhei KAIHO

Shida-Toso / Installation view / Photo by Ryuhei KAIHO

Jun AZUMATEI/ Photo by Ryuhei KAIHO

#36 usual time

#36 ogatamana

出品作家:尾形愛

​企画/文:田中啓一郎


会期:2023年4月8日(土) - 30日(日) / 土日祝日のみ開場 14:00-18:00

 

談話席 4/16 17:00-  尾形愛×田中啓一郎

 彼女が扱うモチーフの多くは、動物・スポーツ・食器・陶器や衣服など、日常にありふれた対象である。この日常を描き留める行為には丁寧さや温かさを感じるが、対象への彼女の眼差しは独特であり、温かさとは異なるなにかがそこには混在しているように感じる。彼女が十年以上扱っているリトグラフとは、その制作過程において描く時間と製版する時間が交差し、作者と作品との間に距離が生まれる、そういった表現方法である。丁寧に見たものを描くだけではなく、それを描いた自身をも丁寧に観察する冷静でドライな態度。そのふたつが切り替わる先で選び抜かれた作品には、形容し難い複雑な眼差しが立ち現れる。それは必要以上に溢れる情報や物と、彼女自身の立ち位置を探るライフワークなのだと思う。

 彼女の作品を見ていると、人間の儚さに気付かされる。と同時に、作品は彼女自身を力強く肯定し、私たちに日々を濾していくことを訴える。何気なく過ぎ去る日常を、丁寧に観察するよう訴える彼女の作品や態度こそ、今の世に欠けている何かであることは間違いないだろう。

 本展で彼女がどのように眼差しを展開してくれるのか、今からとても楽しみでならない。

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Installation view / Photo by Keiichiro Tanaka

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Installation view / Photo by Keiichiro Tanaka

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Installation view / Photo by Keiichiro Tanaka

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Installation view / Photo by Keiichiro Tanaka

#37 KaltesFeuer

#37 KALTES FEUER 冷たい炎

出品作家:アクセル・テプファー、ビョルン・ケムメラー

​企画/:不二七


会期:2023年5月20日(土) - 6月4日(日) / 土日祝日のみ開場 14:00-18:00

様々なイメージが夢遊歩行するキャビネットとしてのアズマテイプロジェクト。盗まれた、切り取られた、火のついた、失われた、擦り切れた、引用されたイメージたち。空気を求めてあえぐドア。かすかな煙、あるいはぽつりと浮かぶ雲。我らが故郷たる地球、月からのその眺め。不思議の島々、フクロウたち、猫たち、蟻たち。共鳴して踊ること。宇宙ゴミの中で踊ること。捨てられた者たちが投げ出す無数の手。

それから:想像上の彫刻を実体化する試み、非物質を強化するための議論、共に食事を取ること­­——あなた自身のドアを持参せよ。  < Axel Töpfer | Björn Kämmerer >

本展では、アクセル・テプファーとビョルン・ケムメラーによる映像作品Zwei Türen(2つのドア)のほか、それぞれの作品展示と並行して、左記のテキストを手がかりに、参加者と以下のコンセプトについて話し合いを進めていきます。

予約は不要です。詳細についてはお問合せください。<不二七>

5月20日(土) 17:00-

 オープニング中に「あなた自身のドアを持参せよ。」についての説明を行います。

5月21日(日) 随時

 集い、フォーマットについてや、皆の協力の元いかにして非物質を強化するかについて話し合う。

5月27日(土) 18:00-

 「あなた自身のドアを持参せよ。」アーティスト・トーク&アーティストの手料理による食事会を行い、想像上の彫刻を実現します。

5月28日(日) 随時

 集い、フォーマットについてや、皆の協力の元いかにして非物質を強化するかについて話し合う。

6月3日(土) 随時

 集い、フォーマットについてや、皆の協力の元いかにして非物質を強化するかについて話し合う。

6月4日(日) 随時

 集い、フォーマットについてや、皆の協力の元いかにして非物質を強化するかについて話し合う。  

5月30日 (火) ワークショップ 

アクセル・テップファーが勤めるスイスの美術学校 Schule fuer Gestaltung Basel と、諫早造形研究室(長崎県)の学生が同じ課題に取り組み、オンラインで同時に成果発表をします。

お問合せ:諫早造形研究室 〒854-0071 長崎県諫早市永昌東町18-9

0957-22-8435(烏山)までご連絡ください

アクセル・テプファー (ドイツ、ケーニヒス・ヴスターハウゼン出身 スイス、ベルン在住

​website

テプファーはライプツィヒ(ドイツ)でメディア・アートと写真、ウィーン(オーストリア)で彫刻と映画/テレビを学び、タイポグラフィーのマイスターシューラー(芸術分野の最高学位)をライプツィヒで取得。ヘルツリーヤ(イスラエル)、東京、バーゼル(スイス)、ニューヨーク、パリ、ウルタール(ラヴクラフトの作品に出てくる架空の街)の交換スタジオプログラムに参加。NYCメトロポリタン絵葉書協会やアート集団Songs for a Pigeon、アーティスト連盟理事会Visarteバーゼル支局のメンバーであり、猪名川木喰仏協会のヨーロッパ大使であり、本年からはアズマテイプロジェクトの一員に加わっています。2000年以降、ZeitGenossenのメンバーとして活動しています。テプファーは、特定の指示やマニフェスト、ルール、規則に並行して取り組むことを楽しみ、それが上記のコラボレーションの質を高め、共同作業にフォーカスすることにつながっています。2004年には国際的なネットワークVideoklubを立ち上げ、2011年から魔法の島の想像に関するリサーチ研究所HyBrasilを主導、また2021年よりFeuer Folgt Flutと協力して「想像上の彫刻」に取り組んでいます。

 

ビョルン・ケムメラー (ドイツ、シュトラールズント出身 オーストリア、ウィーン在住)

website

ケムメラーはオーストリアのリンツ芸術工業デザイン大学とウィーン美術アカデミーで学び、2011年にハルーン・ファロッキの映画クラスを卒業しました。アーティスト・イン・レジデンスとして2014年にはロサンゼルスのMAK-Schindlerのプログラムに参加、2015年にはパリ国際芸術劇場に滞在、また2024年にはニューヨークのISCPのレジデンスに参加を予定しています。ケムメラーの作品のほとんどは35mmまたは65mmフィルムで撮影されており、馴染みのあるオブジェクトに焦点を当てた現場でのワン・テイク長回しによって構成されています。

 

自身の形式とテーマ上の関心をひとつだけの美的対象物に統合・集約することで、ケムメラーは全く新しい視覚の扉を開いたのかもしれない。— ジョーダン・クロンク(映画評論家)

 

彼の映画・ビデオ作品は、数多くの展覧会やフェスティバルで国際的に上映されています。

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Installation view / Photo by Ryuhei Kaiho

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Installation view / Photo by Jun Azumat

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Installation view / Photo by Ryuhei Kaiho

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Installation view / Photo by Björn Kämmere

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Installation view / Photo by Ryuhei Kaiho

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Installation view / Photo by Ryuhei Kaiho

#37.2

#37.2 Our Blue Earth  私たちの青い地球 37°2

出演:Soft-Concrete、ナカジー +アクセル・テプファー

​企画/:不二七

開演:2023年8月6日(日)   18:00 開場

毎分150発の追加ロケット。

スプートニク、スターリンク、降水量。

私たちの青い地球!

これは、前展#37 KALTES FEUERでアクセル・テップファーが壁面に残した子です。この詩からインスパイアされたSoft-Concreteが映像クリエイターのナカジーと組んでライヴパフォーマンスを即興で行います。

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#38Halation

#38 HALATION  ハレーション

Artists:Leonardo Bürgi Tenorio レオナルド・ビュルギ・テノリオ | Lino Meister リノ・マイスター | Luwei Shan 単 璐薇 | Mizuki Yui 油井 瑞樹 | Axel Töpfer アクセル・テップファー | Dodor 土士口 | Jun Azumatei 東亭 順

​企画/​文:不二七

会期:2024年3月23(土)24(日)  14:00-18:00

ライヴ:alcoholiqueuliquor​ アルコリキュリカ 3/23 19:00-

Supported by SEIKO

彩度が高く明度差の小さい色同士が隣り合うと、境界が激しくぶつかり合い、視認性が落ちる。色彩において、これをハレーションと呼ぶ。昨今では、ミスやトラブルで周囲に悪影響をもたらす言葉として、ビジネスパーソンが使うそうだ。ネガティブな意味合いが強い言葉だが、視覚表現においては、ときに強いインパクトを与え、その効果を超える鮮やかさを放つこともある。 

 

ハレーションは、関係性や境界が決め手となり、単体では起こりえない。また、条件が揃わなければ起きることはない。起きたところで、それがネガティブに転ぶか、ポジティブに弾むかは、未知である。 

 

多様性の声が高まる現代社会では、異なる特徴によって境界を押しひろげ、個の鮮やかさを互いに認め合いつつある。しかし、皮肉にも明るさの階調は一様に沈み社会的なハレーションを起こしている、と言ったら言い過ぎだろうか。

 

本展を構成する作品は、それぞれ制作意図も異なり、形態も様々だ。展示空間において物質的に接することはないが、互いの作品の領有権をめぐり空中戦を繰り広げることになるだろう。そこでネガティブなハレーションを起こすのか、それとも鮮やかに響きあうのか、はたまた何も起こさない陳列作品展になるか。目撃されたい。

Leonardo Bürgi Tenorio レオナルド・ビュルギ・テノリオ >>>>>

 

Lino Meister リノ・マイスター  >>>>>

 

Luwei Shan 単 璐薇

 

Mizuki Yui 油井 瑞樹  >>>>>

 

Axel Töpfer アクセル・テップファー >>>>>

Dodor 土士口

 

Jun Azumatei 東亭 順

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Installation view / Photo by FUJINANA

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Installation view / Photo by FUJINANA

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Installation view / Photo by FUJINANA

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Installation view / Photo by FUJINANA

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Installation view / Photo by FUJINANA

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Installation view / Photo by FUJINANA

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Installation view / Photo by FUJINANA

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Installation view / Photo by FUJINANA

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Installation view / Photo by FUJINANA

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Installation view / Photo by FUJINANA

#39

#39

An email that gets to nowhere <Absolute Impossibility>

Mitsunori Kurashige
何処にも届かないメール〈絶対不能〉  倉重光則

When the sky merges into the sea, the land dives under the waves 

Jun Azumatei

空が海に溶ける時、大地は波に潜る  東亭 順

Artists:Mitsunori Kurashige  倉重光則 | Jun Azumatei 東亭 順

​企画/​文:不二七

会期:2024年9月14(土)15(日)16(月祝) 21(土)22(日)23(月祝)  14:00-18:00

Supported by SEIKO

喧嘩、決闘、対決 —— 倉重と東亭の2人展が決まってから、顔を合わせるたびに、そう楽しそうに口にしあっていた。創造的実験場として作家が運営する場の特殊性もあいまって、0か100かの実験的ツーマンショーになりそうだ。素材との出会いと関係について抑え気味に語る東亭に対して、叙情あふれる心理描写が躍る対照的な文章を倉重は添えている。多様性や差異こそが根っこにあり、互いにどこまで異なり合えるのか、つまり、どこまで孤独になれるのかを競い合うように楽しんでいる。 <不二七>

何処にも届かないメール〈絶対不能〉   
倉重光則

 激しい雷鳴と共に降り注いでくる雨、雨、雨……
 雨が止むと、地表の上に様々な形をした、にわか作りの小さな湖沼が、処かまわず至るところに出来上がる。足形に窪んだへこみ、タイヤの通った跡、敷石と敷石の間の溝、重い物を引きずった跡…… それら様々な形をした水溜りは、露出したまま残っている地面と組み合わさり、雨が上がったばかりの危なっかしい大気の中で、束の間の緊張した幾何学模様を作り出している。
 水溜りの空は深く、そのために、重力を支えている周りの露出した地面は次第に押し上げられ、見えなくなってしまう。あらゆる垣根は取り除かれ、重い粘液質の層が消え、実像と虚像、現実と幻想の世界がある明晰さの中で一つになる。〈自由〉が蘇る。地面の中の空に浮かんだ木々と枝の間、小さな液の固まりと固まりの間、白い輝きの中を蝶が八の字の字形飛行を繰り返し、鳥達がプロペラを回して飛び交う。浮遊性のトンボは勘違いして尻尾を跳ね上げ、水溜りの空に向かって卵を産み落としていく。
 突然、地面に近い大気の層に引っかかっていた小さな水の粒子が、二つ、三つ、水面に落ちてくると、水溜りの世界は一瞬のうちに解体され、木々の枝は切れ切れになって飛び散り、プロペラは粉々になって砕け、いくつかあった黒い液の固まりもぼやけて引き伸ばされ、ぼんやりした不透明な世界に変えられてしまう。水溜りの世界はすぐに静寂を取り戻し、再び〈自由〉は帰ってくる。

 湿潤な季節が明ける。太陽が空に大きなプリズムを拵える。目が分光器に変わる。あらゆる色という色が地上に向かってばら撒かれてくる。赤、橙、黄、黄緑、緑、青、紫……
 そしてあらゆる物という物が輝きだす。と、次の日の朝、突然、辺り一面が鉄工場になったような音に驚かされ、叩き起こされる。鋳物を軽く叩く音、鉄をヤスリで擦る音、高速旋盤の回る音…… それらの音はどれも皆乾いた金属音の響きで、様々な音階を持って、辺りかまわず四方八方から響いてくる。地上全体が狂ったような不協和音の渦の中に巻き込まれていく……
 もう眠ってなどいられない。飛び起きて、外に出て行きたい衝動に駆られる。激しい渇き、夏が輝いて、目の前を通り過ぎる。クラクラする。目眩、身を震わせながら逃げる。そして立ち止まる。
 風は無かった……
 景色は光の中で一つになって、一枚の絵のように確実に眼前に広がっていた。
 
 目が考えている……

 葉と草の林を通って公園へ出る。そして動かない。なぜならこのような全てのものが絶えず過ぎ行き、常に速くなったり、遅くなったり、全体としてはゆっくり過ぎていく。もう動かない。石垣のある曲がり角で、折れた枝が様々な方向に交差している。地面、それ自体としては白い……青が、トカゲがすべすべした石の表面を走り、動かなくなり、ただ喉だけがピクピク動いている。空のさらに高い天空は青く塗られていた。その下で雲の塊が群をつくって、感じられないほど僅かに変貌している。離れたり、壊れたりして、山頂の周りを巡り、そしてエーテルの中に溶け、混ざり合って消えていく……

 遠い、ずっと遠い、あの別の世界にそっと滑っていく。まるで泥土を滑るように……あの鋭い割れ目のある場所、鏡の反映、凍結、這い、身震いし、離れ、自己分解する音。
 突然、あれがまた始まる……
そいつを知ろうとするが、それが掴めない。そいつはぬくぬくと埋め込まれた生命を持って、確かにそこに生きている。うずくまり、すぐにも掴まりそうだったのに、それを掴み損ねてしまった。そいつの中心へと注意深く、精密さと平静さを保ち、身を屈めながら、やっとまさにそいつを掴む。丁度、その瞬間、そいつはふっと掻き消えてしまった。急激な逃走の動きと、羽ばたきのような摩擦音を残して、それは虚空の中に呑み込まれてしまった。
あれは何だったのか、掴み損なったものをせめて知ることができれば…… 
あの影だけでも……
あの影が何だったのか、僅かに推量するだけでもいい。できれば…… 不可能だ。
あの不可思議な出来事はあっという間に逃げ去り、その後に残されているのは血まみれの穴だけ……
そして、また日常の不透明さがゆっくりとそれを埋めていく。

空が海に溶ける時、大地は波に潜る
東亭 順

光の差し込み方によって植物の優美な模様が浮かび上がるその白いリネンは、ぱりっとアイロンがかけられているが、ところどころが繕われ、うっすらと黄変した染みが残っているところさえあった。東日本大震災のすぐあと、花々が咲き始めたライン川のほとりにある小さな商店で、その眩ゆい白さに惹きつけられた。

古くは着物の緞子がシルクロードを辿り、ダマスカスで開花したダマスク織りは、機械織の発達によって世界中に伝播した。その名残を感じる安物の花柄シーツが、極東にある我が家にも達していた。ユーラシア大陸の東の端から西の端へと渡ったものが、西欧で熟し、日本に戻ってきたわけだ。端西で見つけた美しいリネンに親しみを感じたのは、悠久の時を経ても変わらぬ感性が途絶えずに流れていたからだろう。

2011年から2014年にかけて、その古びた美しいダマスクリネンをキャンバス代わりに用いた制作に取り掛かった。他者の気配に染められたリネンに圧倒されることもあった…。あれから10年以上の月日が流れた。何者かによって大切に扱われてきた時間と比べて、我々もすでに遜色ない年月を共に過ごしたと言える。

用途やデザインを発展させながら遥かユーラシアを渡り、時を超えて世界中の日常に溶け込み、その時々の持ち手によって自然に育まれた文化。もはや受け継がれることもない慣習や技術は骨董の域に達し、いまや風前のともしびにある。偶然手にしたリネンから感じた郷愁と輝きは、終末への予感だったのか。いま、照り返す白さは身を潜め、鮮やかに彩られた花々を浮きあがらせている。塗りつぶし、染み込ませ、擦り込みながら、それらを捩じ伏せるように更新している。

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