#21 Before giving a name
出品作家:田中啓一郎


会期:2021年4月3日(土) - 5月2日(日) / 土日祝日のみ開場 14:00-18:00

4/3(土), 4(日), 10(土), 11(日), 17(土), 18(日), 24(土), 25(日), 29(木祝), 30(金), 5/1(土), 2(日)

作家HP

 

アルゼンチンで生まれたある美術家は、

閉鎖された領域を越え無限に拡がることを期待して、

一色に染めたキャンバスにナイフで切れ目を入れた。

数年前その実物を見る機会があった。

想像していたより遥かに血液で染めたように輝き、

絶妙な張力をたたえた画面は皮膚の様に薄く、

傷口のような切れ目には緊張感があった。

吸い込まれるように限界まで近づいた時、

黒い布が張り付けてあることを知った。

夢から覚めるように現実に引き戻されたあと、

向こう側も見たくなった。

〈田中啓一郎〉

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彼のスタジオに幾度か訪れたことがある。

几帳面に整えられた工具や筆。

白い壁には小さな紙に描かれたエスキースがところどころに貼られている。

実験ピースは宝の原石だと言わんばかりに散らばり、

所狭しと並ぶ作品群はスタジオを飛び出していたるところに点在していた。

彼はいつもその場所で、挽きたての豆で美味しいコーヒーを淹れてくれる。

そして口早に制作の経過、新しい作品の構造

あるいは最近の出来事について話を聞かせてくれる。

その度に、ああ、この人間はつくることへのワクワクが止まらないのだろうなあ。

きっと言葉に言い表し尽くせないドキッとするような風景を存在させたいのだろうなあ。

と思わずにはいられなくなる。

田中啓一郎の生み出す作品は、360度格好が良い。

モダンな色彩もさることながら、木の年輪がつくりだす模様までもを味方につけ、

佇む場所によって作品は表情を豊かに変えてみせる。

彼の手作業の恩恵を受けた木材は、

木枠本来の働きを尊重しつつカタチを覚えていき、

さらに、風合いたっぷりの麻の地もここぞと纏わり付き、いざ成立へ向かう。

そこにすーっと伸びる彼等身大の筆致からは描くという行為への誠意を感じ取れる。

素材に向けるストイックな姿勢と心地のよい戯れに魅了されると共に、

作品の洗練された無骨さが彼の技量と人となりを強く教えてくれる。

飽くなき追求心はいつまでも美しい瞬間を追うのだろう。

それはわたしたちに美術への浪漫を思い出させる。

〈アユミツカゴシ〉

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